
潰瘍性大腸炎と自律神経|腸が回復する時間を、どう作るか
炎症を抑える薬は飲んでいる。食事も変えた。それでも、腸が回復している感じがしない。
そういう時期がありました。そのころから考えるようになったのが、自律神経です。
体が「活動する側」に入りっぱなしだと、腸はいつ回復に回るのか。朝から晩まで気を張っていて、休んでいる時間がない。その状態が何年も続いたら、傷を治す時間そのものが取れないのではないか。これは私の仮説です。ただ、調べてみると腸と自律神経の関係そのものは、生理学ではっきりしていました。
この記事では、そこで分かったことと、切り替えを起こすために私がやっていることを書きます。
この記事で書くこと
- 腸が動くのは副交感神経が優位なとき。交感神経が優位だと、運動も血流も抑えられます
- ただし「副交感神経が上がれば炎症が減る」を潰瘍性大腸炎で確かめた研究はありません
- 切り替えを起こす手段として、私はサウナを使っています
- 血便が出ている日の入浴は、公的な禁忌に入ります
※ 私個人(潰瘍性大腸炎の当事者)の記録です。医療者ではありません。ここに書く仮説は、確かめられたものではありません。調べた事実と、私が考えていることを分けて書きます。
潰瘍性大腸炎と自律神経|腸が動くのは、副交感神経が優位なとき

自律神経には交感神経と副交感神経があります。ざっくり言えば、活動しているときに働くのが交感神経、休んでいるときに働くのが副交感神経です。
消化管については、生理学の総説にこう書かれています。
交感神経
- 消化管で起きること
- 運動と分泌が抑えられる。血管が収縮して血流が減る
副交感神経
- 消化管で起きること
- 胃と腸の運動が促される(ただし促進と抑制の両方を担う)
これは教科書の説明にとどまらず、ヒトで実際に測られています。健常者18人に暗算や冷たい水に手を入れる負荷をかけたところ、腸に向かう動脈の血流が有意に下がりました(Clin Auton Res. 1991)。運動中に測った別の研究では、内臓への血流が3〜5割減っています(J Physiol. 1998)。
交感神経と副交感神経は、シーソーではありません
ここは正確に書いておきます。「副交感神経が優位=体が回復している」という一本の綱引きではありません。
いまの生理学では、交感神経と副交感神経は2つの軸で別々に動くと理解されています。両方が同時に上がることも、同時に下がることもあります(Psychol Rev. 1991)。
※ 出典:Compr Physiol. 2014;4(4):1339-68(消化管の自律神経制御の総説)/Clin Auton Res. 1991;1(1):37-42(健常者18人)/J Physiol. 1998;513:907-13(19人)。いずれも健常者を対象にした研究で、潰瘍性大腸炎の腸で同じことが起きるかは確かめられていません。
ここまでは、腸そのものの話です。では、炎症のほうはどうなのか。潰瘍性大腸炎と自律神経の乱れ|腸が回復する時間は、いつあるのか

腸が動くのは副交感神経が優位なとき。そこまでは分かりました。
では、腸の傷が治るのはいつなのか。ここを、私はこう考えています。
先に書いておくと、これを確かめた研究は見つかりませんでした。日本の治療指針(104ページ)とIBD診療ガイドライン(168ページ)を全文検索しましたが、潰瘍性大腸炎の病態を「自律神経」という言葉で説明した記載はありません。発症要因として挙げられているのは、遺伝子座・食事内容・喫煙・薬剤・腸内細菌叢の乱れです。
迷走神経で炎症を抑える研究は、どこまで進んでいるか
ただし、まったく手がかりがないわけではありません。迷走神経(副交感神経の中心になる神経)を刺激して炎症を抑える、という研究の流れがあります。
迷走神経の抗炎症経路
- 分かっていること
- マウス・ラットの実験。迷走神経を刺激すると、炎症を起こす物質の産生が抑えられる
Bonaz 2016 / Sinniger 2020
- 分かっていること
- クローン病の患者の首に、迷走神経を電気で刺激する装置を手術で埋め込んだ研究が2本。1本目が7人、2本目が9人。どちらも半数以上が寛解に至った
Guo 2023
- 分かっていること
- 潰瘍性大腸炎の患者。心拍の変動が小さい人ほど、粘膜の治り方が悪かった。ただし後ろ向きの研究
そして、この2本には比べる相手がいません。装置を入れなかった人のグループを置いていないので、良くなったのが装置のおかげなのか、たまたま落ち着く時期だったのかを区別できないということです。著者自身も「もっと大きな比較試験で確かめる必要がある」と書いています。
もうひとつの研究(Guo 2023)には、因果が逆の可能性があります。自律神経が乱れているから治りが悪いのか、治っていないから自律神経が乱れるのか。過去のカルテをさかのぼって調べた研究なので、そこは区別できません。
※ 出典:Neurogastroenterol Motil. 2016;28(6):948-53(7人)/同 2020;32(10):e13911(9人)/BMC Gastroenterol. 2023;23(1):188。潰瘍性大腸炎で「副交感神経を上げたら炎症が減った」を示した比較試験は、確認できませんでした。
それでも私がこの仮説を捨てないのは、自分の体に思い当たることがあるからです。潰瘍性大腸炎とストレスによる腹痛|私は小学生の頃からでした

小学生のころ野球をやっていて、試合前になるとお腹を下していました。お腹が冷えたときもそうです。緊張や冷えでお腹に来るというのは、昔からありました。
子どもの頃の腹痛と、大人になってからの腸
この話に対応する研究があるのか調べました。ぴったり同じものはありませんでしたが、関係を見た研究はあります。
ダニーデン出生コホート
- 分かったこと
- 1972年生まれの子を26歳まで追跡。7〜9歳のとき腹痛があった子は、26歳時点で過敏性腸症候群になっている率が約1.9倍(受診歴があった子では約3.8倍)
メタ分析3,169人
- 分かったこと
- 寛解している潰瘍性大腸炎の人の28.7%が、過敏性腸症候群と同じ症状の基準を満たす。内視鏡で炎症が消えている人に限っても23.5%
英国20,193人
- 分かったこと
- 潰瘍性大腸炎と診断される前に、過敏性腸症候群と診断されていた人が15%(対照群は5%)。5年以上前からそうだった人も6%
もうひとつ、別の角度から調べた研究もあります。小児期のつらい体験と病気の関連を見た498,709人のメタ分析では、過敏性腸症候群とは強く関連したのに、潰瘍性大腸炎とは有意な関連が出ていません。
つまり「子どもの頃から腸が弱かった人が潰瘍性大腸炎になる」とは、まだ言えません。私の場合はそうだった、という話です。
※ 出典:Am J Gastroenterol. 2005;100(9):2071-8(ダニーデン出生コホート)/Lancet Gastroenterol Hepatol. 2020;5(12):1053-1062(27研究3,169人)/United European Gastroenterol J. 2014;2(6):505-12(英国20,193人)/Trauma Violence Abuse. 2026(22研究498,709人)。
在宅の仕事で、切り替えが下手になりました
大人になってからは、家の中でパソコンに向かう仕事が増えました。朝起きてから寝るまで、同じ場所に座っています。
そうすると、オンとオフの切り替えが下手になったという感覚があります。仕事が終わる区切りがないので、気づくとストレスが溜まっている。そして暴飲暴食をしたり、下痢が増えたりということが、実際にありました。
これは測ったわけではなく、体感です。ただ、自然に任せていたら、休む側には切り替わらないとは思いました。
だから私は、切り替えを強制的にさせるような方法を探しました。サウナは自律神経に効く?|切り替わるのは、外気浴のときでした

私が選んだのがサウナです。熱と冷たさで、体に強制的に切り替えを起こせると考えました。
では、実際に体の中では何が起きているのか。心拍変動という測り方があります。心臓が打つ間隔のわずかなゆらぎを見ると、交感神経と副交感神経のどちらが働いているかを推定できるというものです。
これで測った研究を並べると、こうなります。
サウナ室
- 体で起きていること
- 心拍も血圧も上昇。交感神経が優位になり、副交感の指標が下がる
水風呂
- 体で起きていること
- 収縮期血圧がさらに上昇。交感神経がもっと強く働く。顔を冷やすと脈が遅くなる反応も同時に出て、両方が競合する
外気浴・休憩
- 体で起きていること
- 心拍が低下。ここで副交感神経が優位に切り替わる
日本で42人の実際のサウナ利用を測った報告では、副交感神経の指標(rMSSD)はサウナ浴中に大きく下がり、外気浴のときに大きく上がっています。そしてこう書かれていました。
サウナによる「ととのった」感覚は、外気浴の時間を十分に確保し、副交感神経活動が優位となるような状態で実施することで得られるものと考えられた
熱いところと冷たいところは、切り替えの「振り幅」を作る工程です。切り替わりそのものは、そのあとに来ます。
※ 出典:Complement Ther Med. 2019;45:190-197(93人。サウナ中と冷却期のHRV)/Eur J Prev Cardiol. 2016;23(6):593-601(37人。12℃の冷水浴で収縮期血圧が有意に上昇)/河原・石神, 第47回人間-生活環境系シンポジウム報告集 2023(42人)。いずれも潰瘍性大腸炎の患者を対象にした研究ではありません。
では、潰瘍性大腸炎の人が入っていいのか。そこも調べました。
潰瘍性大腸炎でサウナに入っていい?|血便が出ている日は、公的な禁忌です

治療指針とIBD診療ガイドラインを全文検索しても、「サウナ」「入浴」「温熱」「温泉」はすべて0件です。
なので、判断材料になるのは公的な入浴の基準です。ここははっきりしています。
環境省が定めている温泉の一般的禁忌症に、こう書かれています。
病気の活動期(特に熱のあるとき)/消化管出血、目に見える出血があるとき/慢性の病気の急性増悪期
そして厚生労働省の公衆浴場における衛生等管理要領は、「下痢症状のある者」を入浴させないよう定めています。感染症予防が趣旨ですが、施設側のルールとしてそうなっている、ということです。
サウナの脱水は、思ったより早く起きます
日本サウナ・スパ協会は、1回の発汗量を約300〜400mLとしています。健常者25人を対象にした研究では、10分のサウナと5分の休憩を3回繰り返すと軽度の熱中症のモデルが成立し、体重と血圧が下がり、尿量が減りました。
そこまで水分が抜けると、腸にも影響が出ます。健常者20人の研究では、体重の3%の脱水を起こすと、小腸の透過性が一時的に上がりました。
ただし、4週間くり返し入った研究(15人)では、腸のバリアの指標にも腸内細菌にも変化は出ていません。一時的なもの、ということです。
血便が出ている日、下痢が続いている日、熱がある日は、入らないでください。体調が落ち着いているときでも、入る前と出たあとに水分をとってください。日本サウナ・スパ協会も、従来の3ステップに「入る前の水分補給」を足した4ステップを勧めています。
※ 出典:田淵ほか, 地域救急・災害医療研究 2019;18:3-13(25人)/Sci Rep. 2021;11:15503(20人)/BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022(15人・4週間)。いずれも健常者を対象にした研究です。
そのうえで、私がどうしているかを書きます。潰瘍性大腸炎での、私のサウナの入り方|外気浴を削りません

私の入り方は、こうです。
サウナ室
- 時間
- 6分以上。必ずここまでは入ります
水風呂
- 時間
- 1分ほど
外気浴
- 時間
- 心拍が落ち着いて、体がリラックスした状態が続くあいだ。時間は決めていません
そこがいちばん狙っている部分だからです。熱いところと冷たいところだけこなして帰ると、切り替えが起きる段階を飛ばすことになります。
そして、その外気浴で休んでいるとき。お腹がぐるぐる動いて、回復している感じがあります。
これは体感で、便の数字で確かめたわけではありません。ただ、感覚が来るのが水風呂の最中ではなく、そのあと休んでいるときだというのは、副交感神経が優位になるのが外気浴の段階だという測定と食い違っていません。
同じ切り替えを狙って、鍼灸も検討しました
同じ「切り替え」を狙う方法として、鍼灸も検討しました。受けないことにした理由は、別の記事に書いています。
同じ自律神経の話で、私が選ばなかったほう

潰瘍性大腸炎に鍼灸は効く?|論文を調べて、私は受けませんでした
潰瘍性大腸炎で鍼灸を受けるつもりで、治療指針・世界の論文・保険・費用・大学病院の鍼灸外来まで調べました。
鍼灸を調べた記録を見るまとめ(私の場合)
- 腸が動くのは副交感神経が優位なとき。交感神経が優位だと運動も分泌も抑えられ、腸への血流も減ります
- ただし「副交感神経が上がれば炎症が減る」を潰瘍性大腸炎で確かめた研究はありません。ヒトで試されているのは、クローン病の患者に手術で刺激装置を埋め込んだ2本(7人と9人)だけです
- 治療指針にもIBD診療ガイドラインにも、「自律神経」で病態を説明した記載はありません
- サウナで副交感神経に切り替わるのは、外気浴の段階です
- 血便が出ている日・下痢が続いている日は、公的な禁忌に入ります
私は、潰瘍性大腸炎そのものをサウナで治そうとは思っていません。そういう研究はありませんし、期待するところでもないと思っています。
考えているのは、腸に血が回る時間を、一日のどこかで作るということです。交感神経が優位なままだと、そこに血は来ません。家でパソコンに向かう毎日で、切り替えが自然に起きている感じもしませんでした。だから、切り替えを強制的にさせる方法として使っています。
仮説は仮説のままです。それでも、休んでいるときにお腹が動く感じは、私にとって確かなものでした。測れていない以上、そこまでしか書けません。
よくある質問
Q. 潰瘍性大腸炎と自律神経は関係がありますか?
A. 腸そのものと自律神経の関係は、生理学ではっきりしています。交感神経が優位なときは腸の運動と分泌が抑えられ、血管が収縮して腸への血流が減ります。健常者18人に暗算などの負荷をかけると、腸に向かう動脈の血流が有意に下がったという実測があります。ただし日本の治療指針とIBD診療ガイドラインを全文検索しても、潰瘍性大腸炎の病態を「自律神経」という言葉で説明した記載はありませんでした。
Q. 副交感神経が優位になれば腸の炎症は減りますか?
A. それを潰瘍性大腸炎の患者で確かめた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。迷走神経を刺激すると炎症が抑えられるという仕組みは提唱されていますが、基礎は動物実験です。ヒトで試されているのは、クローン病の患者の首に刺激装置を手術で埋め込んだ研究が2本(7人と9人)だけで、どちらも装置を入れないグループと比べていないため、良くなったのが装置のおかげかどうかは区別できません。
Q. サウナのどの段階で副交感神経が優位になりますか?
A. 外気浴・休憩のときです。93人を測った研究では、サウナ中は迷走神経の成分が一時的に減り、出たあとの冷却期にHFパワーが上昇しました。42人の実測でも、副交感神経の指標(rMSSD)はサウナ浴中に低下し、外気浴のときに上昇しています。同じ報告は「ととのった感覚は、外気浴の時間を十分に確保することで得られる」としています。
Q. サウナの入り方で、どこを長くとればいいですか?
A. 私は外気浴だけ時間を決めていません。副交感神経が優位に切り替わるのが外気浴の段階だからです。サウナ室は6分以上、水風呂は1分ほど、外気浴は心拍が落ち着いて体がリラックスした状態が続くあいだ、という入り方をしています。※あくまで私の入り方で、体調によって変わります。
Q. 潰瘍性大腸炎でサウナに入っても大丈夫ですか?
A. サウナと潰瘍性大腸炎を扱った研究は、探した範囲では1件も見つかりませんでした。判断材料になるのは公的な基準です。環境省の温泉の禁忌症には「消化管出血、目に見える出血があるとき」「病気の活動期」「慢性の病気の急性増悪期」が挙げられています。厚生労働省の公衆浴場の管理要領も、下痢症状のある人を入浴させないよう定めています。
Q. サウナで脱水になりますか?
A. 日本サウナ・スパ協会は1回の発汗量を約300〜400mLとしています。健常者25人の研究では、10分のサウナと5分の休憩を3回繰り返すと軽度の熱中症モデルが成立し、体重と血圧の低下、尿量の減少が確認されました。健常者20人の研究では、体重の3%の脱水で小腸の透過性が一時的に上がることも報告されています。


